僕らが思い出すその日のために

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 高一の秋休み、新聞社で働いている親戚にもらったチケットで、サッカー観戦に誘ったのは敦人だった。運良くか運悪くか、ガチなファンたちに囲まれていたおかげでユニフォームまで貸してもらって盛り上がり、最後には並んで手を繋いで大声を張り上げていた。 「ゴーーーーール! うぉぉぉぉぉ!」  勝利が決まった瞬間、そこにいた全員が咆哮を上げて立ち上がり、誰彼構わず抱きついてきた。もみくちゃになりながらハグしまくって、されまくって、遥希は知らないうちに敦人とも抱き合っていた。 「平気だった?」 「え? 楽しかったよ。」 「そっか、なら良かった。ハルがこういう感じで騒いでるの見たことなかったから、えーって思ってたら悪いなって思ってさ。」  興奮覚めやらぬままじゃれ合っているうちに腕を組んで、そのまま駅に向かって歩いていた。お互い解くタイミングが見つけられなかったけれど、駅に近づくにつれて普通の利用客が増えて気恥ずかしくなったのはすでに遠い思い出だ。  高二の進路別振り分けで同じクラスになった初日、隣の席になった敦人は机に肘をついて遥希に言った。 「四年越しでやっと一緒のクラスか。ワールドカップみたいじゃね?」 「四年越しも何も一緒になるの初めてだろ。」 「だったっけ? 取り敢えず二年間よろしく。」  笑いながら、頬が赤くなりませんようにと遥希は祈った。  他意はないことは分かっている、それでもこれから二年間同じ教室で過ごせるのが嬉しかった。  そんな二年間の日々も間もなく終わる。  受験のため登校せずに家で勉強している生徒も出てきている。敦人だって自宅学習に切り替えるかもしれない。  そして同じ大学とはいえキャンパスの違う学部を志望しているから、敦人といっしょに過ごせる時間はもう長くはない。  気持ちを伝えよう、なんて大それたことは考えてない。そもそもそれが何なのかはっきりと言葉にすることもできていないのに。  だけど何かしたっていいじゃないか? たとえそれが相手に届かないくらいささやかで、自己満足なことだとしても。
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