僕らが思い出すその日のために

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 ベンチで隣に並んで身体を冷やしながら、何もない線路を見ている時間。十数センチの隙間が僕たちの距離だ。隣の敦人はどことなくそわそわして、靴の底でコンクリートの表面の荒さを確かめているみたいにザリザリと音を立てている。 「なあ! なんかさ、予感するんだけど、俺きっとこれ覚えてるわ、卒業してもずっと。大人になっても、大学出ておっさんになっても。会社員になって、くそー今日も残業かよって思った時にたぶん思い出して、卒業直前にこんなことあって必死で謎解きして楽しかったなぁ、あの頃に戻りてぇって懐かしがる。」  うん、って声に出せずに遥希は顎をぐっと引いた。本当はマフラーをおでこまで引き上げたかった。嬉しくって、泣きたいくらいなのに「僕も。」って軽く言える余裕もなく、ただ真っ赤になった顔を敦人には絶対に見られたくなかった。 「ハル、聞いてる?」  名前を呼ばれただけで涙腺が勝手に緩んで涙が滲んできた。瞳から零れないように目を開いたまま小さく「ん。」と頷くと敦人は安心したように続けた。 「でさ、電話すんの。よお、ハル元気? ワールドカップ一緒に応援しようぜ、四年ぶりだなとか言ってさ。な、ちょっといい関係やろ?」 「四年間会わないつもりかよ。」 「いや会う。会うな、絶対。」 「なんだそれ。」  溢れそうな涙をごまかすにはもう笑うしかないのに、うまくいかない。笑顔を作りながら目じりから頬を伝った一筋がすぐに冷たくなる。  涙は見えてないはずだったけれど、俯いたまま吸い込んだ息が震えて敦人は遥希を覗き込んで慌てた。 「どうかした? だいじょうぶ?」 「平気、寒すぎて涙が出ただけ。」  一つ深呼吸して敦人の顔を見てもう泣いてないことを伝えると、安心したように笑ってくれた。
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