僕らが思い出すその日のために

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 促されて一緒に下駄箱に向かって歩いて行く。こうやって校内で歩くのも、あと何回出来るのかな。 「差出人、女子だと思いこんでたけど男の可能性もあるって気がついて、他のやつがもらったのと見比べたら俺のだけスペル間違ってただろ。」  手袋を忘れた敦人は、冷えた両手をこすり合わせてからコートのポケットに突っ込んで、にっと楽しそうに笑った。 「五人くらいに見せてもらって確信した。俺のだけわざとしてるんだって。でもスペルミスはalwaysだけだろ。やっぱ分かんねー、って思ってたけど、アレだな、文法ミス。見つけるの苦労したよ。happyのh(エイチ)が小文字のまま、不定冠詞のa(エー)が抜けてる、alwaysのl(エル)が多い。謎は解けた、犯人はhal(ハル)だ。」  得意げに話す敦人の声が好きだ、と遥希は思う。  校舎から出れば、冷たい空気に吐き出される息が白い。自分の名前を呼ぶ優しい響きを、この白い息みたいに形のある何かにしてとどめられればいいのに。
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