僕らが思い出すその日のために

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++++  校門から駅までは徒歩でほんの十分ほど。短い道のりなのに敦人の声は雑多な音に紛れてしまう。  古びた待合室の冷え切ったベンチに座る。電車がやって来るまでの数分、時間は伸び縮みするって本当だ。テストの答え合わせ、好きなサッカー選手の素晴らしさについて、後は将来のこと。どうでもよくて大切な話ばかりしているとあっという間に過ぎてゆく。  きっと敦人はあのメッセージをどこかから持ってきただけの意味のないものだと思ってるんだろう。それならばいい、深読みされて気まずいまま卒業してしまうより、こうして笑っている方がいい。  不明瞭な自動アナウンスが電車の到来を告げるのをぼうっと聞いていると、敦人が真剣な顔をしてつぶやいた。 「俺、お前に追いつかなきゃって焦りすぎて忘れ物したから、見送ってから教室に戻るわ。」  思わず笑ってしまった。 「まじ? 明日でもよかったのに。」 「いやいや、大事なことだったから。」  大丈夫だよ、見送らなくてもいいよって言おうとしたけど、やっぱり一緒に待ってほしかった。きっと敦人ならこの位のわがままも許してくれるだろうと思って「分かった。」と頷いた。
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