僕らが思い出すその日のために

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++++  午前中のテストも二時限目で終わり、三四時限は自習時間となっていた。  小声で話をしている生徒、イヤホンを耳に突っ込んで黙々と勉強している生徒、ためらいなく帰る生徒もいる。十二年間学校に通ってやっと自分のペースで勉強できるのが大学受験だなんて皮肉な話だ。  数十人の生徒のいる締め切った教室は暖房で温まり、そこに差し込む昼の日差しで頬が熱かった。問題集を開いて考えるふりをしながら、遥希はさっきの敦人の言葉をぼんやりと反芻していた。  同じ中学から学区外のこの高校に来たのは敦人と遥希の二人だけ。敦人だけは遥希のことを中学の時と同じようにハルと呼んでいて、そのたびに遥希は胸の奥がくすぐったくなっていた。  敦人と遥希の通っていたのは一学年三クラスの小さな中学校で、クラスは違っていても学年全員が顔見知りだった。  お互い親しいというほどではなかったけれど、高校に通い始めてから帰りの電車で一緒になったり、夏休みに他の友達絡みで何度か遊んでいるうちにお互いにスポーツ観戦が好きなことが分かって会話が増えた。  応援しているのはレアル・マドリードと地元のJ2リーグのチーム、そして熱心さは少し下がるけど地元をホームにしている野球チームの動向も一通り追いかけてはいる。
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