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また、ふたり。
いつも母親に聞かされる、俺の出生秘話。
百篇も聞かされたら、もうすでに秘話じゃなくなる。
おまけに
「旦那さんは?」
と聞いてくるおせっかいなどっかの誰かにも、簡単に話す。
「いやー。いつの間にかいなくなってー。気がついたら、代わりにこの子がおなかの中にいてー。参るよね~。堕ろすわけにもいかなくってさー。シングルマザーでもいっかーとか思ってたら、旦那の代わりもできなくてー」
本人は冗談のつもりかもしれない。
笑えない。
アホらしい。
そそくさと人が離れていく様子を3歳から見せられていたら、厭世的小学生が出来上がる。
「いやー。旦那がいないおかげで、面倒なママ友付き合いしなくてすんだわー」
飲み切れない500mlのビール缶を煽り、自分では豪快なつもりの下品な笑い声をあげて、中学生の俺に次のつまみを要求してくる。
老けたな。
疲れてるな。
またなんか言われたのか?
同情はしないけど、料理上手になったのは感謝してる。
行政のシステムとそれなり処世術を駆使して、俺は大学に受かった。
高校?記憶にないな。あるけど、思い出したくない。
普通に学校行って、普通にツレができて、普通に彼女ができて。
母親は荒れた。
「アタシが育てたのに!アンタまで出ていく気なの?!」
そんなわけないだろう。
見捨てられるわけないだろう。
飲み残しのビール缶の中から、まだ飲めるのをいくつか寄せ集めて、少しは料理に。少しは俺の中に。少しは排水管に。
機嫌のいい時には、彼女にまで生い立ちを話してくれる。
機嫌の悪い時は、二人そろって出ていけと喚かれる。
「いいんじゃない?その時はその時。アンタ一人くらい、アタシが育ててあげるわよ」
豪快に笑う、同い年の彼女。
好きだ。
ついてく。
ついでに俺の母親も。
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