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「だって、さ」
「うん」
もごもごと口を動かす様子が、何となく小動物に似ている、と彼は思ったが、言えば怒られるだろうな、とも思い、心の内に仕舞っておくことにした。
「春が溶けるって、物理的にって意味? 地球温暖化的な」
「いや、違うけど…」
「じゃあ、やっぱり、春が溶けたら夏になる、があなたの求めてる答えに近いんじゃない?」
「そうなのかなぁ…」
「何なら満足する答えが出るまで付き合うけど」
今度は板チョコを手で折り、それを彼の方へ差し出した。
彼はそれを受け取り、納得のいっていない表情で口に入れる。
「もし、もしもの話だけど」
「うん」
手で折っても歪な形になってしまった板チョコを見て、彼女は意味もなく、足を上下させた。
「春が溶けて夏にならなくても、他の何かになったとしても」
不意に強い風が吹き、彼女の長い髪は、首に絡みつく。
「こうやって傍にいても、いいのかな」
手に持ったままの板チョコは、少しずつ溶け始めていた。
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