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汚れた十二月
午後になってから、少女は桟橋へ降り立った。その日は曇天で、鉛色の雲はひどく厚かった。まだ昼を過ぎたばかりなのに、日暮れ時のように辺りは暗く、海は重油を流したように、黒く重くうねっていた。少女はポンチョのフードを深く引き下ろして、目線をずっと下に向けていた。ほつれた黒い髪が一房、彼女の首元で風になびいていた。風は強かった。潮風はその日も油臭くて、強かった。
同時に降りてきた、連絡船の他の乗客はすべて地元の人間だった。アヒルの群れに交じったカラスのように、少女は浮き上がっていた。潮風に晒され続けて、顔の皮膚がゴムのようになった漁師や主婦たちは、まるで打ち合わせたかのように、少女に目もくれなかった。半ば無意識のうちに、彼らは関わり合いになることを拒んでいるようだった。誰もが不機嫌そうで、暗い顔を上着の襟に深く埋め、むっつりと押し黙るか、そこにいない誰かに向かって不平を口にしていた。
だから少女は独りで立っていた。人だまりから離れて、身動きもしなかった。フードが目深に過ぎて、表情はうかがえなかった。華奢なアゴと薄い唇だけが見えた。フードの付いた黒いポンチョの中に、多分小さな、その身体はすっかり包み隠されていた。ポンチョが人が着るためのものではなくて、まるで黒い包み紙のように見えた。
安煙草の黒煙を、機関車のように吐き散らしながら、ハンチングの老漁師が行きすぎた。彼が最後だった。ようやく桟橋は少女だけになった。彼女はまだ動かなかった。風は強まったようで、空はいっそう暗くなった。この瞬間に、最初の雨粒が落ちてきてもおかしくない、そんな空模様だった。
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