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「遅れたな。やせっぽち」立ち上がりざま、冷蔵庫のニールは言った。「二十分の遅刻だ」
「俺じゃなくて、連絡船の船長に言ってくれ。海が荒れたんだよ」
ばかでかい手が伸びて、俺の首を掴んだ。
「口答えはするなと言ってるだろう。やせっぽち」ニールはむしろ穏やかな口調で言った。
「分かったよ。ニール。この手を放してくれ」
「遅れて申し訳ありません。ニールさん、だ。――言ってみな」
「〝遅れて申し訳ありません。ニールさん〟」
ニールは鼻に皺を寄せて嗤い、放り出された俺は、咳き込んで石畳に唾を吐いた。イダは素知らぬ顔で突っ立ち、白い吐息を立ちのぼらせていた。
俺は瞬きをした。
彼女の吐息の中に、ダイヤモンドを――いや、何かが輝くのを見た気がしたからだ。
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