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ニールの馬鹿笑いを背に、俺は階段脇の小部屋に入った。電熱器のスイッチを先に入れてから、水を入れたケトルを掛けた。ニールも後から入ってきて、サバイバル術の講釈を始めた。俺は適当に相づちを打った。よくいる阿呆が垂れ流す、知ったかぶりの知識と違って、ニールのそれは受け売りじゃなく、戦場で人を殺して身に付けた本物だった。拝聴した方がよかったかも知れないが、糞みたいな知識であることに変わりはなかった。
俺はイダの息の中に見えた輝きのことを考えていた。光の加減か、目の錯覚だってことは解っていた。それでも、考えないわけにはいかなかった。
インスタントコーヒーと一緒に沸いた湯を、俺はカップに注いだ。ニールが断りもなくカップを取ったとき、ドスンという鈍い音がした。何が重いものが落ちたような感じだった。天井が揺れ、漆喰の細かい欠片が降ってきた。小部屋の真上は二階の半ばをぶち抜いて造った、コンウェイの所謂「スタジオ」の一画だった。
「やれやれ。大将の奴、今日はやけにがんばる――」
突然、凄まじい破砕音が降ってきて、ニールの台詞を途切れさせた。今度はドスンじゃなく、ダダダ・ダンと続けてものが落ちる音がした。入り混じって、コンウェイの絶叫が聞こえた。
「こんちくしょう、このあま!」
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