汚れた十二月

6/8
前へ
/22ページ
次へ
「急ぐんじゃなかったの?」  俺はうなずいた。 「分かった」何が分かったのかは分からなかった。だから、尋ねた。「おまえのこと、なんて呼ぼう?」名前は? とは俺は訊かなかった。 「――イダ」わずかな沈黙の後に、〝イダ〟は答えた。 「分かった。……こっちだ。イダ」 「待って」 「ん?」 「あんたは?」 「ああ。俺か――アルって呼んでくれ」 「アル」 「なんだ?」 「呼んでみただけ」  通りの端で、助手席にイダを押し込み、俺はシェヴィを出した。ポンコツのスポーツカーは、不機嫌なエンジン音を響かせると、尻を蹴上げられた酔っ払いのように加速した。 「アル」  しばらくして、イダが言った。俺は横目で彼女を見た。やはりきれいなコだった。膚は浅黒く、髪は漆黒だった。瞳も漆黒で大きく、目そのものも大きかった。鼻は小ぶりで低かったけれど、鼻筋は通っていた。フードの下では酷薄に見えた唇は、固く結ばれることに慣れているだけで、案外と肉感的だった。ポンチョの下では相変わらず何かを、彼女は抱きしめていた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加