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最近、バトン・アタックという手口が頻発しているのをご存じだろうか。
何だか一昔前の少年マンガに出てくる必殺技のような名称だが、そうではない。れっきとした犯罪名――もとい、オレたちに言わせれば技術名である。
簡単に言えば、リモコンキー搭載の車を盗む手口だ。
その種の車、鍵を持った人間が近づかないことにはフツーは鍵が開かないはずだが、その鍵の微弱な電波を拾って拾って、最終的には不法に鍵を開けてしまうことからその呼び名が付いた。
拾って電波を繋ぐことから分かるだろうが、一人では不可能な犯罪だ。チームプレイが重要なポイントの一つになってくる。
ともかく、今日も仕事だ。
陽の落ちた、というよりも深夜に近い時刻の闇に沈んだ住宅街に、今オレは立っている。勿論、仲間も一緒だ。
運転手を勤める仲間のいる車は、ターゲットの家から少し離れた場所に停車中である。
今時のガレージは門扉をつけないところが多いのも、オレたち窃盗グループ側を有利にしてくれる貴重な材料である。
だが、この日に限ってまず関門となったのは、その家には今時珍しいことに門扉があったことだ。どれだけ注意して開こうとしても、軋むような音が立つ。なんて厄介だ。
しかし、個人的には厄介なほうが燃える。それこそ、マンガに出てくる泥棒じゃないけどな。
それも、車の鍵が開くまでのほんの十秒そこそこの辛抱だ。
車の鍵さえ開いてしまえば、もうこっちのモノ。アクション映画のように、門扉をブッチギって逃げてしまえばいい。
だが、想定外その二が起きた。
門扉を乗り越え、ガレージ内に侵入したまではいいが、なかなか車が反応しない。
リモコンキー搭載の車と言えば、大体開錠の合図に音がしたり、でなくてもパッとライトが点いたりするモノだ。だが、それすらない。
既に十秒以上経過している。
玄関付近に立っている仲間が、早くしろと身振りで示す。
やってるよ、くそ。
だが、目の前の車は一向に、うんともすんとも言わない。試しにドアを引いてみるが、やはり施錠は解けていないようだ。
そんなバカな。オレたちが使っている道具は新式で、十数メートル離れてたって電波が届くのに。
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