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その教室から海が見えることに気付いたのは、夏休みが始まって暫くが過ぎた頃のことだった。 (1) 屋上に出て、俺を待っていた筈の女の子二人の表情を見た瞬間、分かった。 ――また、だ。また、いつもの人違い。 毎度、そうかもな、と思いつつ呼び出されてくる俺も俺、なんだけど。 「……思ってたのと、違う人だった?」 女の子は真っ赤な顔で頷いた。チラチラと俺を見上げながら、懸命に言葉を探してる。一年生かな。けっこう――かなり可愛い子だ。 耳の下で切り揃えた真っ直ぐな黒髪が頬にサラリとかかる様子が、幼いような――逆に色っぽいような気もする。 付き添いらしい、もう一人の女の子が慰めるようにそっとその子の手を握り、二人は小さな肩を落とした。 そりゃそうだよな。勇気を振り絞って告白しようとしてたんだろうに、別人を呼び出しちゃったんだもん。 こういう場面って、逆ギレしてくる子も多いんだけど――ってか、大抵は逆ギレされんだけど、今日は違った。なんとなく申し訳なさそうな様子で、恥ずかしさに耐えているその子に、俺は好感を持った。 「なあ、背の高い、吹奏楽部のヤツだろ、君が呼ぼうとしてたの」 「……はい。――えっ? ……なんで分かったんですか?」
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