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「知らねえ? 去年、大下のクラスが一年なのに決勝まで進んだじゃん。そのときの作戦だよ」
高校の一年と三年は、まだけっこう体格差がある。素人同士のスポーツ対決の場合、体格差はそのまま実力差になりがちだ。
それに、入学したばかりの一年生は、この学校の、行事にかける異常な熱気に気後れして、つい波に乗り遅れてしまう。年度最初の全校行事である球技大会は、一種の『洗礼』みたいなものだ。これを経験してやっとこの高校の一員になれる、みたいな雰囲気がある。だから去年、大下のクラスが一年生ながら準優勝したのは、かなりの快挙なのだった。
「簡単に言うとさ、内野男子が横一列に並んで壁を作って、ワザとボールに当たんの。そのあたり玉を味方にキャッチさせて自軍ボールにするって作戦。そうすればアウトにならねえだろ?」
「……へえ、考えたな」
「ああ……、思い出した。あれは画期的だったよね」
矢田も頷いた。なぜか葉山がドヤ顔になって、後を続けた。
「内野の人数が多いうちはさ、狭いから球をよけんのってけっこう難しいじゃん。無理によけるより、当たりボールを確実にフォローする方が効率的だろ?」
「すごいけどよ……。そういうの編み出せる能力を、もっと有意義なことに活かす気ねえのか、大下……」
思わず呟くと、葉山が反論した。
「ドッヂの勝ちだって有意義じゃん」
「まあ、盛り上がるし、クラスの結束は固まるよね。」
穏やかに笑いながら、矢田が言った。葉山が何か思い出したような顔になって、矢田に身体を近づけ小声で尋ねた。
「……結束っていえばさ。転校生、ドッヂに入ったんだろ?」
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