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オッサンはまた俺をジロジロと見た。ノンケってなんだろう。流れからすると普通とかそういう意味っぽいけど、聞くのは憚られた。矢田がグラスに手を伸ばしながら苦笑した。 「いや最初はさ、羽多がゲイっていうのは考えてなくて……。むしろ俺がそうだって羽多にバレちゃったかなって思ってたんだ」 「えっ、そうなのか?」 驚いたけど、そういえば初めてあの部屋に行った日にもそんなことを言っていた気がする。 「羽多にはさ、俺が女の子お断りし続けてるの、知られてたろ。人違いで迷惑もかけてたと思うし。でも、そのことで全然絡んでこないからさ、もしかして俺がそうって分かってんのかなって思ったんだよ」 「全然分かってなかった」 「みたいだね。ビックリした。でもさ、俺の方ではバレたかな?って思うようになってたんだよ。それで羽多のこと見ているうちに、あっ、コイツもかって思い始めたの」 「当たっててよかったわね」 オッサンが笑うと、矢田は頷いた。 「うん。自信なかったんだけどね。聞くの、怖かったし。でもまあ羽多なら、誤爆しても平気かな……って思ったから」 「……そうかよ」 それって、友だちとして信頼されてたってことだよな。 そう思うと嬉しかったけど、同時に胸が重苦しく湿りもした。俺が矢田に持っている感情は、そのときも今も、友情だけじゃない。もう一つ、余分なものを隠してる。 俺は、無理やり明るい声を作って茶化した。 「でも、お前あのとき、自信なかったようには見えなかったぜ?」
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