知らんぷり

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知らんぷり

  星導学園2年2組の教室では「おはよう」なんて言おうものならクラスメイト全員からナイフを突きつけられるような緊張感が充満していた。 今日は7月1日。 本来特に何もないこの日を恐れるのはここの人間だけだろう。しかも一ヶ月の始まりの日というだけで。 勿論それは宙井蛍も例外ではなかった。 「では、本日のホームルームを始めます。」 今日の日直は、可愛いと評判の永田柚紀と運動神経が死ぬほど悪い橋岡光だった。やや強張った声で今日の予定を説明する。 「今日の予定は、1時間目学活、2時間目数学、3時間目体育、4時間目理科、5時間目美術、6時間目技術です」 そこまで言うと、柚紀はちらと光を見た。光がおもむろに口を開く。 「なお、今日は7月の初めなので教師は不在。問題が起こったとしても全ての責任は生徒にあるとします。くれぐれも問題行動を起こさないように」 蛍を含めたクラスメイトの大半がまたそれか、と溜息をつく。 蛍は後ろで高く束ねてある髪の毛の先をいじった。 月の初めの日は教師は休暇。校舎内にいるのは生徒のみ。 そんな政策をとる中学校はきっとここだけだろう。 1日の日程はあらかじめ決められているが、何をするかは生徒の自由。1時間目が学活なのはいつものことで、それ以外の科目はクラス内で推薦された生徒が教師の代わりに授業をする。 この政策の狙いは、教師がいなくても心を乱さず、当たり前のことを完璧にこなせる生徒の育成だ。 しかし、この2年2組はその政策を別の用途に利用していた。 それはーーーーーー-------- 「では、今回も1時間目の学活で今月の『羊』を決めるということでよろしいでしょうか?」 手を挙げたのは普段は落ち着いていて友達思いの学級委員、梶原千紗だった。可哀想に今は青白い唇を震わせ、拳をぎゅっと握りしめていた。 沈黙。どうやら反対するものはいないらしい。  まあ反対したところでデメリットしかないことを誰もが知っていた。  しばらくして、光がそっと沈黙を破った。 「では、これでホームルームを終わります。起立、礼」 有難うございました。 蛍は静かに机に突っ伏した。
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