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 メインの出演者たちは連日のように稽古のスケジュールとなっている。しかし、出番もセリフも少ない私のような立場は、たまに開催される全体稽古か、本番直前の通し稽古にならないと呼ばれない。一時期は稽古が毎日続いたこともあったが、苦しかったのか、それも含めて楽しめたのか、どちらの感想を抱くべきか考えはまだまとまっていない。  バイトをしていても、お茶を引くようなタイミングがあると、ついイヤな想念に取りつかれる。私に無くて、あの後輩にあるものってなんだろう。  いや、この問いかけはよくないな。この形で思考を深めると、最終的に自己否定で自己嫌悪になるか、もしくは後輩を嫌いになってしまいそうだ。彼女は彼女で必死に舞台女優の道を歩んでいる。そのスタイルを羨んだり、恨んだりするべきじゃない。あ……、面白いことを思いついた。 「あらいらっしゃい」  ママの声に振り向くと、常連のおじさまが来店していた。おしぼりを出しながら、思いついたばかりの話をする。 「誰かのことを羨ましいって思う気持ちって、病気なんですよ。【(ウラ)む】気持ちに【()む】が合わさって【(ウラヤ)む】んです」  おじさまは、言われてみればそうだな、と楽しそうに反応してくれた。我ながら気の利いたことを言えたな、と思ったものの、おじさまが帰った後でよく考えてみれば、結局は後輩のことを羨んでいることに気づいた。  そして最終的に、自己否定で自己嫌悪に陥るところまでが予想通りだった。
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