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「金が惜しいわけじゃない。給料も、申し訳ないがお前よりはるかに貰っている。年金だって、特例で早く貰えているし。公務員云々なんて言うなよ、四十五年間払い続けたんだから。瀬尾が居たら『退職金だって、しこたま貰ったしな』って、言いそうだけどさ。なあ、山本。お前、女房の言い分、分かるか?
『良い娘さんなのよ。ご両親に、良い印象を持ってもらいたいじゃない』って、言うんだ。冗談じゃない! 息子だって、どこに出したって恥ずかしくないぞ。新聞社で、第一線で頑張ってるんだ。なんで、下手に出なけりゃいけないんだよ。そりゃ、息子には勿体ないくらいの娘さんだよ。よくぞ来てくれました、って言いたいよ。だけどな……」
驚いたことに、突然に目が赤くなり出した。何かが、村井を突き動かしたようだ。
「いや、すまん。また、来るわ」
突然に、席を立った。
「ああ、ありがとうな。奥さんと、仲直りしろよ。こうやって入院すると、しみじみと思うぜ。付き添いのない淋しさをな」
「そうだな、うん、そうだな」
私への返事ではなく、村井自身への言葉に聞こえた。
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