(五)

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「はい、山本さんですね? それじゃ、こちらの問診票を書いてください」  渡されたのは、これもまたA4サイズだったが、こちらはびっしりと項目が埋まっている。二択の項目が多くて、質問事項が多い割には早く書き上がりそうだ。  廊下の壁沿いに椅子が並べられている。三列に並べられた椅子ではあるけれども、その殆どが患者で埋まっている。まるで己の所有物かの如くに、どっかりと深く座っている。 「あんたも風邪かね? 風邪位で大病院に来るなと言われるけどさ、あたしら年寄りは色々と病気を持ってるでね。やっぱし大病院じゃないと、不安じゃからね。ほれほれ、ここに座んなされ」  端の方から声がかかった。立っているのが辛かった私は、渡りに舟とばかりに腰を下ろした。そしてひと通り問診票を書き終えて、急いで受付に手渡した。 「目まいが、起床時にあったんですね? それから吐き気が襲ってきた。今は、治まってます? そうですか。それじゃその旨、先生にお話しておきますから。少しお待ちください。ご気分が悪くなりましたら、すぐに仰って下さいね」  説明を受けている最中に、携帯電話がブーブーと唸り始めた。民子からだった。携帯電話禁止と壁に貼ってある。バツの悪い思いをしながら、慌てて廊下の端に行って電話に出た。 「ごめんね。今、病院? で、どうなの? いいわ、これから行くから。病院名を教えてくれる? それと大まかな場所も」  メールに、今気が付いたと言う。山の中ではメールも届かないのよと愚痴っていたが、鞄の奥底で忘れられていたのだろう。相変わらず、文明の利器を毛嫌いする奴だ。 「仕事ではパソコンも使うけど、プライベートにまで持ち込みたくないわ。ほんとは携帯電話も嫌なんだけど、子供たちがうるさいから。ま、便利であることは否定しないけど。でもさ、おトイレに入ってる時に限って掛かってくるのよ。いやになっちゃう」
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