ある男の夢 1

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「それが初めから分かっていたら何も面白く無いでしょう。色々な事を想像し、自由に物語を作っていけるから『夢』というのは面白いのです。水滸伝みたいな夢だからと言って、水滸伝のように国と戦う必要は無いのです。『何かの大会に出るために108人のメンバーを集めている』と言った物語にしたって、別に構わない訳ですからね」 「なるほど・・」 「それに、一番の肝は、あなたが選ばれた理由でしょうね。何の取柄も無い人が選ばれるはずがありません。そこには何か、深い意味があるのでしょう。それを想像するのは、なかなか興味深い事だと思いませんか?」 「確かに・・」 「ちなみに、そのパーティー会場には知り合いはいましたか?」 「いいえ、一人もいませんでした」 「それはさらに面白い。普通、夢と言うのは、今まで出会った人達が出てくるものですからね。あなた自身が、そういう出会いに関心を持っているという事なのかも知れません」 「はあ・・」 「そういう訳で、私は、あなたの夢を高く評価します」 店主が後ろを向いて、すぐそばにある引き出しを開けて何かを取り出し、また男に向き直った。 そして、店主の手から5000円札一枚が、テーブルの上に置かれた。 「5000円で、その夢、買い取りましょう」 「えっ!?今ので5000円ですか?!」 「はい」 「本当によろしいのですか・・?」 「ええ。先ほども申し上げたように、私は、あなたの夢がとても面白いと感じました。その夢に、私はこれだけの値打ちがあると判断したのです」 「そ・・そうですか・・。これだけあれば、妻にプレゼントが買ってやれます」 男はテーブルに置かれた5000円札を財布の中に入れて、立ち上がった。 「ありがとうございました。助かりましたよ」 「いえいえ。こちらこそ」 男はドアを開け、店を出て行った。 「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」 店主が小声で言った。
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