1人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
ある少年の夢 1
「ここか・・」
中学生ぐらいの少年が、ある建物の前に立って呟いた。
その建物の上の方に、白地に黒い文字で
『質屋』
と、大きな字で書かれていた。
しかもその下には
『あなたが見た夢、買います』
と、これまた大きな字で書かれていた。
(確かに、噂通りの建物だな)
少年は、自分が見た夢を買い取ってくれる店があるという噂を聞いて、ここにやって来たのだ。
(未成年でも大丈夫だよな・・?自分が見た夢を売るだけなんだから)
見た目はおとなしそうで真面目そうな少年である。
だが、何か、とてつもなく大きな意思を持ってここにやって来たように見える。
少年は覚悟を決めて、店の中に入って行った。
「いらっしゃいませ」
店主らしき男が小さな声で言った。
その男は、ドアの正面の椅子に座っている。
40代くらいの地味な男だ。
少年は店内を見回した。
見た感じは駄菓子がまるで置いていない駄菓子屋と言った感じで、ものすごく殺風景だった。
が、ある棚に小説が置いてあった。
『飛び出す動物図鑑』が7冊。
その下の段に、『煩悩にほえろ!』が10冊。
少年はその小説をチラッと見ただけで関心を失ってしまった。
どうやら小説には興味が無いらしい。
少年は椅子に座り、店主と向かい合った。
「あの~・・」
少年がすぐに言葉を発した。
「何でしょうか?」
「ここでは、自分が見た夢を買い取ってくれるそうですが、未成年でも大丈夫でしょうか?」
「もちろん大丈夫ですよ。別に、君の持ち物を買い取る訳でもありませんので、保護者の同意書とかも一切必要ありません」
「そうですか・・。良かったです・・」
少年はホッとため息を吐いた。
そして、再び尋ねた。
「あの棚に置いてある小説は、あなたが書いた物なのですか?」
「ええ、そうです。まあ駄作ですがね」
「そうですか・・」
「もっとも、君は小説には興味が無いようでしたが?」
「あはは・・。バレましたか・・」
「先ほどの君の動きを見ていれば当然分かります。小説をちらっと見た後は、一切見向きもしませんでしたからね」
「そうですね。確かに俺は小説には興味がありません。休みとかの暇な時間は、雨が降らなければいつも外に出ていますので・・」
「では、外でやる事に興味があると言う事ですか?」
「はい。俺はテニスに興味がありまして・・。と言っても、俺はまだ下手糞なんですがね」
最初のコメントを投稿しよう!