井戸の蛙

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 だからと言って、それで不満があったわけではない。  むしろ幸せな生活を送れていると認めるし、この狭い世界で充分満足しいていた。  学校も嫌いではなかったし、とりわけ家族と過ごす時間は充実していたのだ。僕の家族は、はいわゆる「理想的な家族」である、と思っている。お父さんとお母さん、お兄さんと僕の四人家族で一戸建てに住んでいるのだが、皆仲が良く休日は当然のようにダイニングテーブルを四人で囲む。  そして土曜日の今日も夕刻、いつもの時間に家族がテーブルに集い出す。次々と料理が置かれていくテーブルに視線を走らせ、お父さんが口を開いた。 「箸は? 箸がない」  お父さんは大きな会社に勤めていて、お給料は高いが帰宅時間はいつも遅い。海外出張も多くて家に帰ってこないときも多いが、とても優しい父だ。こうして家にいるときは僕の相手をしてくれるし、海外出張の際は必ずお土産を買ってきてくれる。  センスは皆無に等しく、有名店のお菓子以外にも靴下やらおもちゃやらお菓子やら色々買ってきてくれるのだが総じて奇抜な見た目なものばかりで──当然、お菓子を含めて──初見思わず身を引いてしまうのを堪えるのにいつも僕もお兄さんも必死だ。
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