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「箸はそっちの棚にあるから用意してくれる?」
お父さんの言葉にお母さんが台所から答えた。
そう、お母さんは特別優しい。
お母さん特有の「愛故のお叱り」はよくあることだが、理不尽に怒鳴り散らすところはまず見たことがない。専業主婦で、お父さんよりも毎日一時間くらい早く起きてお弁当を作っている。就寝時間も一番遅く、僕が深夜に目が覚めてリビングに向かうとまだ起きている、ということはよくあった。
家事は休日を含めてお母さんしかほとんどしないけど、愚痴をこぼしたことはない。家族に尽くす、一昔の女性像を彷彿とさせた。
そんなお母さんの欠点は、ものを捨てることができないところだった。
勿体ないとか、いつか使うかもしれないとか、思い出が詰まっているとか。何かしら必ず理由があって明らかに不要になったものも捨てられない。お兄さんや僕が幼少期使っていた涎掛けから始まり、直近なら機種変更して使用しなくなったスマホまで。
そういったものが積もりに積もって、一戸建てとはいえスペースの確保にお父さんはよく頭を抱えている。現在お母さんのもので溢れている物置部屋は本来、僕かお兄さんの部屋になる予定だったらしい。
お母さんの唯一の欠点なので許容したいところだが、この一癖に家族全員が閉口しているのも事実だった。
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