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「叡、皆のご飯をそっちに持って行ってくれない?」
お母さんに呼ばれて僕は台所に向かった。
僕のことも、少しだけ話しておこうと思う。僕は現在小学四年生。ちなみに「叡」と書いて、あきらと読む。小さい頃から本が好きで勉強も苦に感じたことはない。テストも九十点より下は取得したことがないし、学校でも成績は良い方だと自負している。対して運動は少し苦手で昼休憩も校庭で遊ぶことはあまりしない。運動ができるお兄さんを羨ましいと思うことが時々あるけれど、お兄さんは僕の頭脳をよく羨ましいと言ってくれる。一長一短。僕は今の自分に、不満はない。
そう、不満はない。「狭い自分の世界」という真理に気付いても、その狭い中で理想的な人生を歩めているのだ。不満などあるはずがなかった。
僕がご飯をよそったお茶碗を二つテーブルに置くと、お母さんが大皿に乗った唐揚げを中央に置いて、夕ご飯の支度は終了だ。皆暗黙的に決められた席に着き各々が合掌すると料理へと手を伸ばした。
「そう言えば、」
暫く無言で食べていたが、ふとお母さんが口を開く。
「お父さん、来週から一週間アメリカに行くから」
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