井戸の蛙

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井戸の蛙

 僕は、世界が狭いことを知っている。  俯瞰的に、神様の視点から見ると確かに世界は広いのかもしれない。国の数は二百に近く、世界の総人口はおおよそ七十億。それでも未踏の地は数多存在し、人類が地球上の全てを知り尽くすにはあまりにも広すぎる。そこに宇宙も含めたならば、世界の広さなど未知数だ。  それでも、「僕の世界」は狭いのだ。  僕が大人になって経験を積んでいけば、なるほどそれだけ僕の世界も広がるかもしれない。だけどそれはもう少し先の話だ。僕はこれまで、祖父母の家を含めず出身地から外に出たことがなかった。  来年は修学旅行で他県に行く予定だが、たかが修学旅行。踏む地は新鮮でもどうせ教師とクラスメイトに囲まれた、教室と大差ない環境になるに違いない。  学校も家から近く、習い事さえも自転車で事足りる。電車なんてそうそう利用しないし、「出かける」と言えばつまり「友人の家に行く」ことを意味する程度。  僕の世界は、我が家と小学校のみで構成されていると言っても過言ではなかった。俯瞰的に世界を想像できても、肌で感じなければ見識が広がったとは言えない。いくら願ったところで他人の世界と、僕の世界は交換できない。  残念なことに神の視点を持ち合わせていない今の僕の世界は、とてつもなく狭いのだ。
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