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出会った二人の気が合えば、心許していくのがこの世の道理か。
それにしても、二人の想いは千里より遙かに遠く、異なるものである。
徒和は今や、明るき陽よりも緋寒を慕う。戦で散った父を思うがごとく。遠く離れた兄を想うがごとく。それゆえか、男の誠を気にするには、あまりに心は幼い。
だが、緋寒の徒和を見る目は父のもの、兄のものでなし。
双つの心は重なることなく、同じくするはただ、逢瀬の月日。
「桜が見とうございます」
幾度となく紡がれる徒和の願いは真に迫り、聞いて緋寒の顔が緩む。
「陽の下にて舞うこれは、さぞ麗しきことでしょう」
「光は未だ其が心を掴むか」
桜を見上げる徒和は気付けぬ。刹那に変わった緋寒の面を染め上げるは、すべてを焦がす妬きの炎と。
昏き想いが灯る翠の瞳を見るのは、ただ花開かぬ桜と暗がりだけ。
「陽の下こそ人の生きる域。闇に執するなど、それこそ悪鬼の歩む道でございましょう」
「そなたの心を掴めるのであらば、それこそ修羅道にも落ちてみせよう」
「あなすさまじき。おたわむれを」
戯れ言と思う徒和の声は明るい。それを見、緋寒はふと漏らす。
「なぜ、かように強く桜を望むのか」
「なぜとは」
「桜を慕う所以を」
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