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「いやいや絶対ない」
私の相談を一蹴して、アキコはコーヒーをすすった。
時刻は午後3時。ここは職場の近くの喫茶店だ。同僚のアキコに、例の件を相談してみたのだけど──
「ユメノ。あんたの勘違い、考えすぎ。気のせい」
ばっさりと切られてしまった。
「いやいやホントなんだってーアキコ! 信じてよぉ」
泣きつく私に「はいはい」と手を振り、アキコは肘をついて私を見つめる。
「元カレがこっそり帰ってきたんじゃないの? ちゃんと合鍵は捨てさせた?」
「出て行く時に鍵は預かったよ……」
私はしょんぼりと肩を落とす。対するアキコは盛大にため息をついた。
「じゃあホントに気のせいか、もしくはマジの変質者よ。家にカメラとか仕掛けてみたら?」
「うう……確かに、最近空き巣被害が増えてるとかアパートの掲示板に書いてたけどさぁ……」
とてつもなく不安になって、消え入りそうな声で言いながら、私は机の上に置いたスマホをアキコに差し出した。
「とりあえず、怖いから……今日、出かける前に家の中の写真を撮ったの」
そこには今朝撮ったばかりの私の部屋の写真が映し出されている。
アキコは写真をみて露骨に眉をひそめた。
「……部屋めっちゃ汚いわねあんた」
「あ、あはは……」
言い返すべくもなく、私は乾いた笑いで答えた。
今の私の部屋は文字通り”足の踏み場がない”。足元にはコンビニ弁当の食べ殻や、飲み終えたペットボトル、脱ぎ捨てた洋服などなどなどなど……とにかく、お世辞にも綺麗とは言えない部屋だ。
「なんか、片付ける気にならなくて……心の余裕? っていうのかな」
「もう1ヶ月でしょ。そろそろ立ち直りなさいよ」
「アキコはモテるからいいじゃん」
むぅ、と膨れる私をみて、アキコは笑った。
「まぁでも、あんたの言ってることが気のせいじゃないなら、その汚い部屋を片付けてくれたりするかもね?」
「う……まぁ、確かに……」
雨の日に洗濯物を取り込んでくれるくらいだから、部屋の片付けくらいしてくれてもいいかもしれない。
本気で悩む私に、アキコは「ほらね。だったらさ」と言葉を続けた。
「案外良い奴かもよ? ほら……座敷わらし? みたいな?」
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