手術の前日に

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手術の前日に

 この1週間というもの、苦痛なのは点滴の針刺しだ。利き手が右なので、なるべく左腕や手の甲で点滴をしている。やはり、針刺しの達人な看護師さんと苦手な看護師さんがいる。 左腕のいわゆる「良い血管」は手術用に温存する為、腕の関節やら手の甲の血管を使うのだが痛い!話には聞いた事があるけれど、これほど痛く辛い思いをするとは予想外だった。左右の腕が紫色になり情けなくなる。 私は子供に恵まれないまま、明日には子宮と卵巣と卵管の全摘出をする。7歳年下の夫には申し訳ない気持ちしか無く、メールで思いを伝えた。夫からの返信は「大丈夫。猫ちゃんでお腹いっぱいですよ。」温かい返信に涙が止まらない。そんな時に、病室全体に何かの音が響いてきた。 この1週間の間に、腹腔鏡手術や抗癌剤の化学療法を受ける方が入れ替わり立ち替わり入退院していた。この日の昼過ぎまでは広い病室には私1人になっていた。 どうやら私の向かい側のベッドに、新しい患者さんが来たらしい。ベッドの足元には「血液科」と書かれたプレートが下がっている。 「?」血液科の入院病棟は南側で私の居る病室は「婦人科」で北側なのだ。 昔と違い、患者同士での挨拶は無い。 患者さんは若い妊婦さんで、スピーカーに機械を繋いで胎児の心音を大音量で流していたのだ。看護師さんが来ると音量を下げ、「熱があって〜」と大人しくする。看護師さんがいなくなると、また音量を上げ、オマケに夫と両親と友人夫妻と騒ぐ…パリピーだ。 私は夫にメールをした。どうやら「産科」病棟は見晴らしの良くない8階の為、病床が不足すると見晴らしの良い11階に割り振られるのだそうだ。私が夫とメールのやり取りをしている間も 「スカイツリー見える〜!」 「記念撮影しよ〜!」 「赤ちゃんの心音だから、大きくても良いよね」 等と騒ぐ騒ぐ…。 翌日には子宮を全摘出する患者と同室って、配慮が無さ過ぎると悲しくなった。 何故か私はPCルームに逃げ込んだ。普段は細かい事は気にせず明るい私が長らくPCルームに居るので、看護師長が事情を聞きに来た。 告げ口の様な真似はしたくなかったが、この時の私はメンタルがボロボロだったようだ。 看護師さんがいない時の病室の状況を話した。 すると看護師長から思いがけない提案をされた。「お部屋を移動されますか?」 なんじゃ、それ!堪忍袋の緒が切れた。 「妊婦さん、おめでたい事です。ですが、明日、子宮全摘の患者と同室にするのは余りにも配慮に欠けます。部屋移動にしても、さっき来た人ではなく、既に1週間も入院している人が荷物まとめて移動しなくてはならないのか理由を説明してください」と訴えました。 結局パリピー妊婦さんは明朝、隣の病室へ移動したが…その日は消灯過ぎても友人と騒いでいました。
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