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1年生なのかなぁ。ケンさん、っていうの。また、どこかでお会いできるかな。
小さな願いと彼の名前をそっと胸にしまった時。
「ひまり――……!」
幼なじみの野々村慶子ちゃん、通称おケイちゃんがわたしのところに駆け寄ってきた。
「ごめんね、お待たせ、おじ様とおば様がひまりとはぐれて向こうで困ってた……って、なに!? その姿は!?」
おケイちゃん、転んでボロボロになっていたわたしの姿を見てビックリ。
「あ、うん、転んだの」
「もーっ! なにやってんのーっ!」
赤ちゃんの時から一緒のケイちゃんは、とても世話好きです。わたしの服の汚れを掃いながらおケイちゃん、ストッキングが破れてしまって血が出ていた膝を見て、ああもう、と顔を上げた。
「医務室行こう。ストッキングは私が替えを持ってるから。そうそう、おじ様とおば様には携帯で連絡して入学式の会場に行っててもらって。ほら、急ごう」
「うん……」
入学式早々お世話になっちゃいます。
おケイちゃんに手を引かれて小走りに歩き出したわたしは「おケイちゃんあのね、今ね」って報告しようと思ったんだけど、話せなかった。
わたしの中でまだ、ちゃんとまとまった形になっていない掴みどころのない感情が頭の中を靄のように覆っていて、転んで直ぐに助けてくれた人がこんな人だったの、という事象を話すだけの単純な事が出来なかった。
胸が高鳴って、上手く話せないと思ったの。何故こんなに胸がドキドキと高鳴るのか、この時は本当にまだ、わからなかったの。
この日の記憶は、桜の花びら舞うキャンパスの思い出と一緒にわたしの胸にそっとしまわれた。次に、彼に会う日まで。
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