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たまに、見かけることはあった。入学式のキャンパスで初めて言葉を交わした時と変わらず、人を惹きつける雰囲気を纏う人だった。
いつも女の人と一緒の彼だったけれど、時折一人でいる時に見せる表情に、わたしの胸がキュッと締まった。何か、物足りないような、お腹が空いてるの? って聞きたくなる表情に思えたのだ。
でも、話しかけるなんて夢のまた夢。彼がわたしにくれるのは、苦しいような、痛いような、涙が出そうになる感覚だった。
それが何を意味する感情なのか、分からなくて、また苦しくなる、そんなことの繰り返しだった。
モヤモヤとした形のないこの気持ちはなんだか言葉に出来なくて、おケイちゃんにも話してなかった。話さなかったわたしが、悪かったのかしら……。
今は少し違う意味で、思い出すだけで涙が出そうになります。
「それはおケイが悪いな」
「だって~」
ランチのピーク時間を少し過ぎた学内レストランは、ほどよい賑やかさに包まれていた。
わたしは、おケイちゃんとおケイちゃんの彼氏、平田晃司さんと一緒に窓際のテーブルに座っていた。
おケイちゃんは、平田さんにさっきの一件で窘められていた。
「おせっかいが過ぎるとそれはただの迷惑だ。賢の性格はお前が一番知っていた筈だろう。見誤ったお前が悪い。ひまりさんが気の毒だ」
「あ、いいえっ、平田さん、おケイちゃんは良かれと思って……」
わたしは慌てておケイちゃんのことをかばったけれど。やっぱりさっきのことは、ショック過ぎて言葉が続かなかった。
ケンさんのわたしを見る目は、初めて会った時とは全然違った。
紹介されてわたしを見たケンさんは、ふうん、と言っただけで軽く会釈をして言った。
『ごめん、悪いけど、趣味じゃねーわ』
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