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驚くわたしにおケイちゃんはクスッと笑った。
「意外でしょ」
心の声が、おケイちゃんに聞こえたみたい。わたしは肩を竦めて小さく言った。
「だって、一緒にいるとこ、見たことないから」
おケイちゃん、そうだね、と頷いて思案する。
「ケンさんは経済学部で晃司とは学部が違うから。それでなくとも男同士はあっさりしてて、学内ではまず一緒にいないからね。でも、本当に仲はいいの。正反対のタイプで長く続く関係は、私とひまりの関係に似てるな、っていつも思ってた」
ケンさんは、おケイちゃんの高校の同級生で、おケイちゃんの彼氏の親友で。頭の中で人間関係を整理してみて一つの結論に辿り着いた。
あんなに探し求めていたケンさんは、こんなに傍にいた。わたしがちゃんとおケイちゃんに話していたら、もっと早く、違った形で――?
ううん。違う形で出会えたとしても、再会出来ていたとしても。きっとわたしはケンさんの心には僅かにも残らない。だって、あの日の記憶もなかったんだもの。
ケンさんは、沢山遊んでいる人だった。わたしの胸には、言葉に言い表せない想いと気持ちと感情が、ぐるぐるとまわっていた。
この、言葉にできない気持ちは、微熱のような、小さな灯のような、そんな微かな熱量を持って胸の中で燻り続けていた。
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