2.15

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そういえば、今日は祖父の命日だ バレンタインの翌日なので、よく覚えている 私は毎年、祖母と、 それから亡くなった祖父に チョコレートを作っている (残念ながら、今年はバレンタインデーに私立校入試がかぶり、作ることができなかったのだが) 歩いていける距離に住んでいる祖母の家を訪ね、 祖母と、仏壇にいる祖父に チョコレートを渡す 「おじいちゃんもきっと喜んでいるよ」 祖母は毎年のようにそう言ってくれる 私は祖父に会ったことがない 顔も、仏壇に飾ってある写真しか知らない 祖父は、私の父とその妹である叔母がまだ小学生の時に亡くなった 交通事故だった 交差点で信号無視をしたトラックが、祖父の車に衝突したのだ 祖父は亡くなる前日、 つまりバレンタインデーに 叔母から手作りのチョコレートをもらっていた 前夜も、そのチョコレートを嬉しそうに食べていたそうだ あまり愛想が良い方ではなく 子どもたちと遊ぶことも少ない 淡白な人であったらしいが、 そんな祖父でも娘からの想いは嬉しかったのだろう 一家の主を失った父たちの気持ちを考えると 不謹慎な考えなのかもしれないが 亡くなる前に、家族からの愛を感じられて良かったな、と 私は仏壇の前で手を合わせながら そう思うのだ バレンタインは、 その人との間にある絆や 普段は見えにくい想いを 再確認するきっかけをくれる そんなイベントでもある チョコレートには不思議な魔力があるらしい 食べた人を元気にしたり ストレスが軽減されたり クッキーでも キャンディでもなく チョコレートなのは、きっとそんな魅力があるからだ 私は来年もきっと バレンタインに、チョコレートを作るのだろう 2.15
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