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B:リン姉さん、本当に行っちゃうのかよ。
A:うん! "ホンモノ"を見に行くの!
B:でも、この街を出たら……
A:恐ろしい怪物にとって食われちゃうぞ~!!ってか?
B:……だって、昔からじいちゃんもばあちゃんも言ってたじゃんか。
A:ユウ。私ね、それでも良いと思ってるの。
B:えっ?
A:この街は美しいところよ?
朝になれば明るくなって、鳥が鳴くし、
夜になれば暗くなって、家々に明かりが灯る。
夏がくれば蒸し暑くって汗をかいて、
冬がくればヒンヤリ手足が冷たくなる。
B:そうだよ。不自由なんて何もない。
A:でもね、ぜーんぶ作り物の世界なんだよ。
この青い空も、気持ちのいい風も、いま私が食べてるパンだって。みーんなニセモノ。
B:それは……
A:昔、本で読んだことがあるの。
ホンモノは体感した者にしか分からない何かがあるって。
B:一体何が違うんだよ。
A:それをね、これから見に行くの!
私思ったの。
このままこの街にいても、所詮私たちは篭の鳥。
守られているようで、閉じ込められているのと一緒じゃない。
一生籠の中で過ごすなんて……耐えられない。
B:篭の、鳥……
A:ホンモノは、正式には"自然"って言うんだって。
B:自然……?
A:そう。私たち人間と同じように、神様が作ったもの。人間には到底真似が出来ない創造物。
B:そんなに違うのかな……そんなに……
A:だから、それを見に行くのっ!
じゃあねっ!
B:あのさ!!!
そのパン……半分くれたら、ついてってやってもいいけど。
A:ふふっ。
もぉー、お腹空いてるだけでしょ~!
B:違うってば!
A:素直になりなさいよ~!
はいっ! このパン全部あげるっ!
その頃──
街境の扉の前では、黒い布をまとった怪しげな集団が動き始めていた……
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