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ピンクババアは俺の顔を見るなり、満面の笑みで厚化粧にヒビ割れを作り、今日も朝っぱらから“ピンク”たる由縁を持ちかけてくる。
「あらヨウちゃん、若い子は元気ねぇ。
きっとあっちのほうも、元気過ぎて困ってんじゃないのぉ?
口で2千……いや、千円でいいわよ。
ヨウちゃんには特別サービスしちゃう」
ヒジキみたいな付け睫毛でウインクされたところで、もちろん俺が承知するはずもなく、今日も苦笑いで後退る。
全くこのバアさん、何とかして食っていかなきゃならないのはわかるんだけど、
毎度毎度俺を見るたび、指で作った筒を咥える仕草で言い寄ってくるのは勘弁してほしい。
けれどもこんな困ったバアさんでも、俺が決して邪険にあつかえないのは、ここの人達の生きる事への必死さを知っているから。
10円玉1枚の価値、パンひと切れの価値──そんなちっぽけな価値にしがみつき、がむしゃらに生きようとする姿は、何か尊敬すらしてしまう。
そんな人達の姿に触発され、これまでの甘えた自分を省みることができたんだと思う。
「バアちゃんゴメン。
今俺、急いでるんだよ」
「大丈夫、アタシのテクはすごいのよぉ?
ヨウちゃんなんか、3分ももたないから」
「友達が迎えに来てるんだよ。
マジで時間ないから」
「ほら、こうして言い合ってるうちに、ピュピュッと終わっちゃうから」
「ちょっ……ちょっと待って!
あっ、ダメッ、触らないでっ!
あ、あぁ………」
“ガンッ!”
と鳴った音が、俺のズボンを半分下げかけてたバアちゃんの手を止めた。
あれは今日何度か聞き覚えのある、俺の部屋の外壁に石を投げられた音。
それに続いて上がったのは、この春空によく通る、女の子の声だった。
「おい、ヨウタッ!
3分まで、残り30秒だぞっ!
1秒でも遅れたら、町内10周だからなっ!」
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