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しばらくして我に返った俺は、口を開けたままのヒミちゃんをチラ見し、この空気をなんとか解きほぐそうと努めて明るい声をあげた。
「お、おめでたいことじゃないか!
ミミ子さんずっと結婚願望持ち続けてたからさ。
みんな祝福してあげようよ。
それにさ、あと1人のメンバーは、また探せばいいじゃない」
そう、ミミ子さんの結婚が本当なら、これは喜ばしいことなんだ。
ここにいるみんなだって、彼女が突然掴んだ幸せに多少の僻みはあるにせよ、それを祝福できないほどひねくれてはいないはず。
ヒミちゃんもようやく唖然とした口を閉じると、自分を納得させるように、うん、と頷いて言った。
「ちょっとビックリしたけど、ミミ子さんが幸せになるなら、それはあたしにとっても嬉しいことだよ。
でも……団体戦のメンバー、あと1人いるかな?」
「散々声かけて、やっと掻き集めた6人やで。今さら卓球経験者で、そんな面倒なことする奴おらんわ」
かつては卓球ブームに沸いたこの地区だから、経験者はいると思うんだけど……
確かにシャチョウの言うように、ここの住民は、金にもならないことに無駄なエネルギーを使いたがらない者が多い気がする。
ヒミちゃんもそれは重々わかっているようで、曇りかけたその表情を、俺はポジティブな意見で食い止めた。
「卓球経験者じゃなくていいんだよ。
団体戦なんだから、とりあえず数合わせに誰かを最後に置いとけば、試合に出ることなんてそうそうないでしょ?」
この市の卓球大会のルールは、男性3名、女性3名で構成された、団体での出場だった。
団体戦のルールとしては、シングル→シングル→ダブルス→シングル→シングルの順に5回戦を行い、先に3勝したチームの勝ち。
つまり勝敗がもつれ込まなければ、最後の5番手に試合の機会は回ってこず、実際最後の選手が出番無しで終わることなんて普通によくあることだった。
勝ちにこだわるヒミちゃんは、配置に穴を作ることにも納得いかないようだったけど、それでも出場できないよりいいじゃないか、と懸命に宥めた。
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