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やがてヒミちゃんが、俺の提案をふくれ面しながらも承知した時。
さっきから卓球台の一点を見つめ、険しい顔をしていた坊主頭が、ここで初めて口を開いたのだった。
「おい、ヨウタ。
てめぇ、なんでミミ子が結婚できたかわかるか?」
「え……
なんでって……出会いバーに通いつめてたから……」
坊主頭がこちらを鋭い目付きで見向く。
頭の両サイドに入ったギザギザの剃り込みから、“イナズマさん”と呼ばれているこの男は、チンピラ下りだけに人相が悪い。
なのにその強面から、ちょっぴりキュートでメルヘンな台詞が飛び出したものだから、思わず俺は面食らってしまった。
「違うよバカ、猫だよ。
ミミ子の奴、星の猫を撫でたんだ。
北村んとこのオバチャンが、それを見たっつってんだから間違いねぇ」
「え……猫?
星って何?」
「知らねぇのかよバカ。だからお前はバカだっつぅんだバカ。
星の猫っつうのはよ、まれにここらに出没する、それはそれは神々しい白猫でな。
頭に赤っぽい斑点があるんだが、それが見事なまでに完璧な星形なんだよ」
「……ふぅん。
で、その猫が何なの?」
「ここまで聞いてもピンとこねぇのかバカッ!
だからお前はバカだっつぅんだよ、バカ!
ありゃあ絶対、ただの猫じゃねぇ。あんな奇跡的な星の形なんて、普通あり得ねぇじゃねぇか。
ありゃあ近頃ここら辺じゃあ、“神の猫”だって噂なんだよ。
あいつの頭を撫でたもんは、何でも願いが叶うってな」
つい「ぷっ……」と吹き出した俺に、イナズマさんは血管を浮き立てて掴みかかってきた。
「てめぇヨウタ、星の猫舐めてんじゃねぇぞコラァ!
何もないところから突然現れたり、突然消えたりするんだからなっ!
そういうのをおめぇ、カミデオニボツって言うんだよバカッ!」
それを言うなら神出鬼没だと思うが、狂犬のように猛り狂ってるイナズマさんに余計なツッコミはしないほうがいい。
見かねたシャチョウが、「まあ、まあ」と笑いながら止めに入り、いまだ血走った目のチンピラを宥めつつ、俺に付け加えた。
「それがな、ミミ子だけじゃないらしいねん」
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