第1話 ~星のにゃんこ様~

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. ヒミちゃんは俺の顔をじっと上目で見つめた後、小さく首を縦に振り、巾着袋からシェークハンドのラケットを取り出した。 公式のラケットなんて高くて買えない俺たちは、ラバーとセットで千円くらいの安物を使っているけど、 それでもヒミちゃんは、ラバーをムースで丁寧に掃除し、汚れ防止のフィルムまで貼っていた。 もともと卓球のセンスがあったのもあるだろうけど、本当にこの子は卓球が好きなんだ。 卓球は昔この地区にとって、希望の象徴だったそうだけど、ヒミちゃんにとっては今だってそう。 こんな場所だからこそ、何であれ自分の存在を輝かせられるもの──つまり生き甲斐って必要だと思う。 「じゃあ、まずは軽いラリーで体あっためようか」 いつもはヒミちゃんが指示する練習メニューを今日は俺が告げると、彼女は無言で頷き、球を打ちよこした。 ピンコポンコピンコポンコと続くラリー。 ヒミちゃんの頭の上で結んだ髪が、リズムに合わせてピョコピョコ揺れる。 ピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコ…… 「ねぇ、ヨウタ?」 「なに?」 ピンコポンコピンコポンコ…… 「ここにいるみんなは、こんな環境だからさ。 昔持ってた夢とか願望なんて、とっくに諦めちゃってるのかな?」 ピンコポンコピンコポンコピンコ…… 「うーん……どうだろ? まぁ、そういう人のほうが多いとは思うよ」 ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ…… 「だよね。 でも、星の猫のことで、みんながそんな無くした夢をもう一度思い出せるのなら、それはいいことなのかなぁ……」 ピンコポンコピンコポンコ…… 「そうだなぁ。 確かに、生きる活力には繋がるかもね」 ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ…… 「ヨウタ、わかる? みんなの願いはそれぞれ違うけどね、みんなの願いに共通してることがあるんだよね」 「共通? お金ってこと?」 ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ…… 「それも勿論あるけどさ。 ニョロさんみたいに、必ずしもそうじゃない人だっているし。 共通するのはね、みんなここを出ていくってこと。 夢を叶えるためには、こんなとこ一刻も早く抜け出したいってこと」 ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ…… 「……まぁ……そうかも」 .
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