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ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「アタシはね、ヨウタ。
お金は無いけど……
学校じゃあボロクソに馬鹿にされたけど……けっこうここが楽しいよ。
生きるのにちょっと不便だけど、不幸だなんて思ってない。
住んでる人達だって変わり者ばっかだけどさ……みんなのこと嫌いじゃないし……」
ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「ヒミちゃん……」
ピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「ねぇ、ヨウタもさ。
もし願いが叶うなら、こんなとこ早く出ていきたいんでしょう?」
「え……そ、それは………」
ピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「ゴメンゴメン、そりゃそうだよね。
こんなとこだしね。
それよりヨウタ、このラリーめっちゃ続いてね?
新記録かも」
「うん、こういう平和なラリーは案外得意なんだよね。
どこまで続くかな」
ピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「ねぇ、ヨウタ……知ってる?」
「何を?」
ピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「ラリーはね……いつか必ず終わっちゃうんだよ……
どんなに、平和でもね……」
「え?」
ピンコポンコピンコポンコピンコポンコピンコポンコ……
「ヨウタのバカッ!」
ピキィィィンッ!!
いきなりヒミちゃんが放った強烈なスマッシュに、俺は驚いて仰け反っていた。
その慣性のまま、クルリと背を向けた彼女は、俺から故意に視線を反らしたようにも見えた。
小気味良い一定のリズムが消え、静寂に包まれた卓球場に、勢いを失ったピンポン玉がテンテンと転がっていった。
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