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今日は比較的温かく、休憩室に使っている出入口付近のスペースには、日溜まりが出来ていた。
そこにあるいくつかのパイプ椅子や丸椅子は、廃品から拾ってきたもので、多少背もたれが破れてたりするけど、まだまだ使える。
その中の3つをお日様のスポットライトの中に並べ、俺たちは軽く汗ばんだ体を投げ出していた。
ニョロさんが水筒に作ってきたスポーツドリンクは、粉末の量がだいぶ少ないけど、渇いた喉を気持ちよく潤していく。
ヒミちゃんは口の中でパチパチ弾ける細かいキャンディを、俺たちの手の平に配りながら言った。
「団体戦の女子、あと1人どうしようか?
誰かいい人いないかなぁ?」
「ふーむ……暇な人ならたくさんいると思いますが。片っぱしゅはら、声かけていふひかないでしょうへ」
キャンディの欠片をいっぺんに口に入れ、パチパチさせながら喋るニョロさんの隣、俺の口から、つい気になっていた懸念がこぼれ出ていた。
「まさか、イナズマさんまで降りるなんて言わないよね……
あの人、今日も練習に顔出してないしさ」
それなりに仕事をしているシャチョウとは違い、今現在無職のイナズマさんが、練習をすっぽかすほど忙しいとは思えなかった。
例の件があって以来、ヒミちゃんもなんとなくイナズマさんとはギクシャクしているようで、彼の話題になると途端に口をつぐんでしまう。
しかしそんな時、事の顛末を知らないニョロさんが、あっけらかんとこんな事を言ったのだ。
「イナズマさんなら、昨夜見かけましたよ?
右手に煮干し、左手に釣りのタモを持って、暗い夜道をウロウロしてましたけど?
そこら辺のドブ川で、ザリガニでも捕ってたんでしょうかね?」
俺とヒミちゃんが見合わせた顔には、お互いに同じ事が書いてあっただろう。
──あのオッサン、本気で星の猫を捕まえる気だ──と。
正直、唖然とした。
まさかそこまでイナズマさんが、星の猫とやらに躍起になるなんて。
よほど現状を変えたい何かがあるのかもしれないけど、いい年した大人が何をやっているのか。
頭を抱えて唸る俺に、相変わらず間延びした声でニョロさんが尋ねる。
「イナズマさん、どうかしたんですか?
ヨウタさん、何か心当たりありそうですねぇ」
「いや……あの……実はさ」
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