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俺とヒミちゃんは、ニョロさんに事のあらましを説明した。
“星の猫”の話はニョロさんには初耳だったらしいが、次第に彼女のメガネがギラギラと輝きだし、ズンズン身を乗り出してくるのがわかった。
「ほほう、願いを叶える不思議な猫ですか。実に興味深いですね。
わたし、そう言ったカルトめいた話が大好物なのです」
これはマズい人に話してしまったと、ちょっと後悔。
これ以上この話を続ければ、ニョロさんまで煮干しを持って彷徨きかねないじゃないか。
ヒミちゃんも同意見だったらしく、慌てて話題を変えにかかるが……
「そ、そんなのくだらない都市伝説だよ。
そんなことよりニョロさん、サーブどれか1つ伝授してよ」
ヒミちゃんの声などまるで聞いていないニョロさんは、メガネの真ん中を指で抑え、不意にこんなことを言った。
「しかし……猫……星……ハキダメ通りに希望を与える存在……
ヒミちゃん、何だか聞き覚えありませんか?」
「………え?」
「それらのワードは、全て星野選手に関連しているとは思いませんか?」
数秒ポカンとした後、みるみるうちに目玉と口をひんむいていくヒミちゃん。
星野選手って、どこの誰だか俺にはさっぱりわからないけど、明らかにヒミちゃんは知っているようだ。
女2人が目と目で会話し合う中に、除け者の俺が割って入る。
「ねぇニョロさん、星野選手って誰?」
「え、ヨウタさん、星野選手を知らないんですか?
この地区に住んでいながら、彼を知らないなんて非国民ですよ」
「だって初めて聞いたもの。
そんなに有名人なの?」
「星野選手はね、この地区の英雄なんです。
卓球を通して、この荒みきってたハキダメ通りに、希望の光を与えた偉大なる人物ですよ。
ここの住民は徳川家康を知らなくとも、彼の名前は全員知っていますよ」
そう言えば前にヒミちゃんが、卓球はここの希望の象徴だって言ってたのを思い出した。
それはきっと、その星野選手って人に関係してるに違いない。
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