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確かに“猫に九生あり”なんて諺もあるけど、転生なんてラノベでもあるまいし。
やっぱりカルト大好き女に相談したのは、大きなミスだったのだ。
ヒミちゃんの瞳から漂い出したキラキラを、俺は必死で払い退ける。
「君たち、もっと現実を見なよ!
だいたいにして、転生ってことは星野選手って死んじゃってるのか?
20年以上前に現役選手ってことは、今40代か50代くらいなはず。そうそう死ぬ年でもないでしょうが」
「それが、よくわからないのですよ。
消息不明なのです。
いろんな憶測が飛び交う中に、海外で病死したという噂もありますがね」
消息不明──?
星の猫という謎の存在と同様、星野選手って人も、なんだか謎の存在に思えた。
どんな人なのだろうか?
今どこで、何をしてるんだろうか?
仮にどこかで暮らしていたとしても、このハキダメ通りは彼の故郷なはず。たまには帰省したり、知人に連絡の1つもあっていいだろうに。
そういうのが全然ないってことは、やっぱり彼は、既に亡くなっているんだろうか──
その後、俺たちはまた卓球台に戻ったけど、ヒミちゃんも俺もニョロさんの言葉が頭に残り、練習に今一つ集中できなかった。
いつの間にか日が暮れていた帰り道、ハキダメ通りとは近くて遠い巨大なビルの間から、大きな満月が見えていた。
随分赤い今宵の月を見上げながら、ヒミちゃんは独り言のように呟いた。
「なんか今日の月、巨大なピンポン玉みたいだよね。
公式の、オレンジ色のやつさ」
俺とニョロさんも、その言葉に誘われ月を見上げる。
まあ、そんな風に見えないこともないけど、何でもかんでも卓球に例えるのはいかにもヒミちゃんらしいと俺は笑った。
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