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女性2人と別れた俺は、夜道を自宅へと急いだ。
明日は単発の仕事が入っている。
地域イベントの会場設営だそうだが、けっこう遠い現場だから早起きになると思う。
地区の中ほどにある枯れ蔓草と一体化したような小屋には【あったか弁当】の手書き看板があり、そこで120円の日替り弁当を買った。
古米を使い、おかずなんかも処分品同様だからこんな値段で出せるわけだけど、ボリュームもなかなかあり、味もそんなに悪くないから助かっている。
しばらくすると俺の住む木造アパートの、1つだけぼんやりと点いた街灯が見えてきた。
家賃月八千円、風呂とトイレは共同だけど、そこはホラーゲームに出てくる赤錆みたいなものに覆われ、こればかりは未だに慣れない。
それでもここにはホームレス同然の人だってウヨウヨいるんだから、俺はまだ決まった寝床があるだけ恵まれているんだろう。
住民達はこのアパートのことを“貸しドヤ”って呼んでいるけど、ドヤって宿の意味だと言うことを最近になって知った。
と、その時、俺の足が急停止したのは、街灯の下に人影があったからだ。
ド派手なショッキングピンクのカーディガンを羽織り、薄くなり始めたショートヘアーを明るいブラウンで染めた婆さん。
あれは、ピンクババアだ……
彼女を見かけると身を隠してしまうのは、もはや条件反射になりつつあった。
今夜もあの格好で、男の“モノ”を求めて通りを彷徨くかと思うと、呆れと同情とでため息が出る。
婆さんが居なくなるまで、物陰に隠れてやりすごそうとした俺だったけど……
今夜の俺は、いつもとは少しばかり違い、一旦は隠れかけたブロック塀から出ると、自らドぎついピンク色に近づいていったのだった。
「やあ、婆ちゃん、こんばんは」
「あれ、ヨウちゃん、今お帰りかい?」
ピンクババアは俺を見ると、たちまち前歯のない口を引き上げ、獲物を見つけた狼みたいにニンマリ笑った。
「なんだいヨウちゃん、たまってんのかい?
たまってんだね?
口なら千円、手だけなら五ひゃ……」
「違うよ婆ちゃん、ちょっと、昔の話を聞きたくてさ」
「昔?
そうさねぇ、アタシの初体験は13の春でね、相手は……」
「そうじゃなくてっ!
星野選手のことを聞きたいんだよ!」
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