第2話 ~伝説の英雄~

9/13
前へ
/241ページ
次へ
. ~~~~~~~~ 女性2人と別れた俺は、夜道を自宅へと急いだ。 明日は単発の仕事が入っている。 地域イベントの会場設営だそうだが、けっこう遠い現場だから早起きになると思う。 地区の中ほどにある枯れ蔓草と一体化したような小屋には【あったか弁当】の手書き看板があり、そこで120円の日替り弁当を買った。 古米を使い、おかずなんかも処分品同様だからこんな値段で出せるわけだけど、ボリュームもなかなかあり、味もそんなに悪くないから助かっている。 しばらくすると俺の住む木造アパートの、1つだけぼんやりと点いた街灯が見えてきた。 家賃月八千円、風呂とトイレは共同だけど、そこはホラーゲームに出てくる赤錆みたいなものに覆われ、こればかりは未だに慣れない。 それでもここにはホームレス同然の人だってウヨウヨいるんだから、俺はまだ決まった寝床があるだけ恵まれているんだろう。 住民達はこのアパートのことを“貸しドヤ”って呼んでいるけど、ドヤって宿の意味だと言うことを最近になって知った。 と、その時、俺の足が急停止したのは、街灯の下に人影があったからだ。 ド派手なショッキングピンクのカーディガンを羽織り、薄くなり始めたショートヘアーを明るいブラウンで染めた婆さん。 あれは、ピンクババアだ…… 彼女を見かけると身を隠してしまうのは、もはや条件反射になりつつあった。 今夜もあの格好で、男の“モノ”を求めて通りを彷徨くかと思うと、呆れと同情とでため息が出る。 婆さんが居なくなるまで、物陰に隠れてやりすごそうとした俺だったけど…… 今夜の俺は、いつもとは少しばかり違い、一旦は隠れかけたブロック塀から出ると、自らドぎついピンク色に近づいていったのだった。 「やあ、婆ちゃん、こんばんは」 「あれ、ヨウちゃん、今お帰りかい?」 ピンクババアは俺を見ると、たちまち前歯のない口を引き上げ、獲物を見つけた狼みたいにニンマリ笑った。 「なんだいヨウちゃん、たまってんのかい? たまってんだね? 口なら千円、手だけなら五ひゃ……」 「違うよ婆ちゃん、ちょっと、昔の話を聞きたくてさ」 「昔? そうさねぇ、アタシの初体験は13の春でね、相手は……」 「そうじゃなくてっ! 星野選手のことを聞きたいんだよ!」 .
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加