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コンビニの煌々とした光を横切る時、老人から無意識に距離を離していたのは、顔を見られたくない防衛反応だったろう。
そう考えると、自分がますます後ろめたい存在に思え、ピウと鳴った北風に胸を貫かれた思いがする。
ふと、コンビニの店内に、自分と同年代の若者達が目にとまった。
近所の大学生だろうか。
1人は男で、もう1人は女。
女の方は寝間着同然のスウェットにコートを羽織っているから、多分男のアパートにお泊まりしている彼女というところか。
雑誌のページを指さし、楽しそうに笑い合う2人が、何故か光の彼方に遠退いて見え、思わず俺は目を反らした。
俺はあの男とは、どこが違うんだろうか。
中学までは成績だって悪くなかったし、あの頃の俺は当然のように大学に進学し、あんなふうに可愛い彼女と楽しいキャンパスライフを送るものと思っていた。
そしてそれなりの会社に就職し、それなりの家庭を持ち……
それが“普通”であると、ずっと親から言い聞かせられていた。
それがどうだろう。
今の俺には、あの青年が自分と同じ種族とすら思うことができない。
どこでどう道を間違えたんだろうか。
今ならまだ、思い直せるんだろうか?
いや、思い直したところで、何も変わりやしない。
今後の人生が好転する未来なんて、俺には思い描くことすらできやしない。
俺は……どうせクズだ……
自棄に荒む心が、足を一気に早めた。
前を行く老人の黒いジャンパーが闇の色と同化し、白い頭だけがぼんやりと目認できる。
フードによって狭く閉ざされた視界には、ポケットからはみ出した長財布。
まっしぐらにそれに駆け寄り、繰り返しイメージトレーニングした動きで素早く手を伸ばす。
右手の指先が皮の感触に触れたのがわかった。
しかしその瞬間、突然その四角い茶色が目から消えたかと思うと、景色が大きく急回転したのだった。
「いっ……いでででぇっ!?」
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