第0話 ~雪夜の街からプロローグ~

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. やがて打ちつけた腰が痛み始めてきた頃、降り注ぐ雪と一緒に、老人の低い声が降ってきた。 「俺の財布を盗ったところで、僅かな小銭しか得られんよ。 それよりも、天に恥じる生き方をすれば、いずれ必ず酬いを受けることになる。 小僧、覚えておくがいい」 言って老人は、そのまま背を向けたのものだから、思わず俺は首をもたげた。 てっきり警察沙汰かと思っていたのに、どうやらその気はないらしく、白い頭がそのまま離れていく。 俺に対する温情なのか、それとも取るにも足らないとでも思われたのか…… どちらにしても、これはつまり、俺は助かったのだろうか? いや、違う。 ただ振り出しに戻っただけ。 ゴミはゴミのまま。 運良く焼却されずに、道端に放置されただけなんだ。 虚脱感が全身の力を奪い、俺は地べたに這いつくばったまま去り行く背中を見送った。 まともな人間にもなれず、悪党にもなれない俺は、いったいなんなのか。 誰か教えてくれ。俺は、どうすればいい? 誰か…… 誰か……助けてくれ…… “グギュルルル……!” そんな心の声を意図せず叫んだのは、俺の口ではなくて、盛大に鳴った腹の虫。 遠ざかりかけた老人が、それに反応して立ち止まった。 「小僧、腹が減っているのか?」 僅かなプライドが老人から目を反らさせる反面、藁にもすがりたい本心が首だけを縦に動かす。 少しの間を置き、老人から返ってきた声は、相変わらず低くはあるけど、さっきまでの威圧感が抜けていた。 「着いて来い。 飯くらいは食わせてやる」 「……え?」 「飯を食わせると言っている。 ときに小僧、お前、卓球はできるか?」 「はぁ? 卓球って……あのスポーツの卓球? 一応、中学の時にちょっと卓球部だった……」 「……そうか、ならちょうどいい。 ほら、いつまで寝てるんだ。 行くぞ」 あまりの予想外の申し出に、思わず目が丸くなる。 見ず知らずの、しかも財布を盗まれかけた老人が、その加害者に飯をおごるとはどういうことなのか? それに卓球ってなんだ? このジイさん、卓球が趣味で相手でも探してたのか? さっぱり訳わからないうちに、黒いジャンパーがどんどん夜の闇へと埋もれて行ってしまう。 その背中を見失いかけた直後、俺は慌てて立ち上がり、老人を追って駆け出していた。 .
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