星の海を泳ぐ柩

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 肉、美味しい。この部屋に連れてこられて、だいぶん経った。パパとママはしょっちゅうわたしに痛いことをした。それと比べたら幸せ。ここには誰もいないけど。肉、美味しい。美味しい肉を持ってきてくれる人は、いつもすぐにどこかへ行く。まぁ、何か言われても、何を言ってるかわかんないけど。でも、わからないのは、すごく、いい。怒られてても、馬鹿にされても、何もわからない。肉、美味しい。  ある日、誰かがやってきた。肉を置いてもすぐにどこかへいったりしなかった。その人は、私の肉を奪おうとした。びっくり。怖い人。でもすぐに返してくれた。肉は小さくなってたくさんになってた。肉、もっと美味しい。その人はわたしが食べ終わるまでずっと待っていた。肉、美味しい。その人は、次の日も、その次の日も来た。毎日来た。毎日、私の肉を小さくしてたくさんにしてくれた。肉、美味しい。ある日、その人は丸くて柔らかいものをぶつけてきた。痛くなかった。けどむかついた。その人にぶつけると、その人は笑った。その人はまた私にぶつけてきた。私もまたその人にぶつけた。笑った。なんだか嬉しくなった。肉、美味しい。その人が来るたび、丸いもの、投げた。その人笑う。笑えない私に、笑う。私、笑わない、笑えない、けど、その人は笑ってくれる。  肉、美味しい。その人、今度はいろんな色の棒を持ってきた。投げようとしたら違うみたいだった。それを白い四角にぶつけると、線や絵になった。お絵描きの道具だ! 私は描いた。描きたいものがあった。頑張って描いたのに、あの人、来ない。早く見せたいのに。今日は、違う人が来た。肉、美味しい。けれど、美味しくないような気もした。やっぱり、出来損ないの私を、あの人も、嫌いになったのかな。肉、まずい。あの人に、会いたい。  出来損ないの私に笑いかけてくれるのは、あなただけだから。
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