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――地球は美しい星だと、何世紀も昔、人々は誇り高く思っていたらしい。今では、他の星の美しさに唇を噛む日々だ。
「兄さん。進捗はどう?」
振り返ると、弟のアキが立っていた。白衣の裾を翻しながら、颯爽と部屋を横切り、僕の傍までやってくる。
「もう少しで終わるよ」
「そっか! 偉いね、随分仕事が早くなった」
「……」
――弟のアキは弱冠二十歳にして、父親である社長の右腕役を務めている。
本当に出来た人間だと思う。社会に適合できなくて、親の脛をかじっているこんな人間にまで、仕事を与えてくれるんだから。
「その仕事が終わったら、いつも通り、リリーにご飯あげてくれる? リリー、兄さんがいくと喜ぶんだよ」
「無表情なのに喜ぶとか、わかるんだ」
嫌味のつもりだったが、アキは人が良さそうににこにこと微笑んでいる。
「……あ、そうだ。これ、あいつにやってもいいか?」
机の引き出しを引き、中に入れていたクレヨンと画用紙を取り出した。アキはそれを冷めた目でちらりと見ると、すぐにまたにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「もちろん! 兄さんは優しいね。本当に偉いよ」
――『偉い』なんて、自分より遥か下の人間に使う言葉だ。
僕は机の引き出しを閉め、虚しくなって溜息を吐くのだった。
宇宙人の存在が発覚してから早数百年。今や地球人たちは宇宙人の研究に心血を注いでいる。
リリーは、最近新しく発見された惑星、ルボル星の人型宇宙人だ。見た目は人間の少女そっくりであるが、感情によって表情を変化することがない。嬉しい時も悲しい時も真顔である――そもそも、知識のない僕には彼らルボル星人に感情というものがあるのかどうかさえわからないが。
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