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「あら。いらっしゃい。嵐子ちゃん」
しばらく、ご無沙汰だったんじゃない? と、更衣室から出てきた彼に、女性が手を振った。
黒いレースがふんだんに縫い付けられた、左右非対称の長いロングドレスを身に纏い、高いカウンター・チェアに腰かけた彼女は、同じく、黒の手袋越しに、ワイングラスを弄ぶ。
真っ白の肌に、長いストレートの銀色の髪の毛。
力強く、きつめの黒いアイライナーと、赤黒いリップが映える、特徴的な化粧。
しかしながら、柔和に彼女は微笑んだ。
「お久しぶりです。薫子さん」
女装サロンバー『キュベレー』。
各々、理由はさまざまではあるが、客が『女装』をして、酒を楽しむ、『男性』のための店。
「ちょっと、仕事が立て込んでまして……」
苦笑を浮かべ、嵐子は薫子の隣に座る。
そんな嵐子の唇に、薫子は人差し指を、そっとあてた。
「仕事だなんて、野暮な事、言っちゃダメよ」
「は……はい……」
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