女装刑事の〇〇奇譚

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『キュベレー』に集う人間は、素性(・・)を隠す決まりがある。  表向きは、俗世を忘れ、開放感を得る場所に、各々個人の事情は必要ない……といった理由なのだが、中には、政治家や大学教授等、密やかな趣味がバレてはヤバい方々の、プライバシーを守るため……といったウワサもある。  が、それはさておき。 「そんなことより、可愛いわ。その服。よく似合ってる。それに、素敵な香りね」 「あ……ありがとうございます!」  薫子に褒められた嵐子が、ポッと頬を赤く染めた。  本日嵐子が身に着けているのは、小さな小花柄の、淡いピンクのワンピースに、ざっくり荒く編んだ、白いニットのカーディガン。  ゴシック系の薫子に比べると、随分とシンプルではあるが、ナチュラル(にみせる)メイクも合い、健康的な女の子そのものだった。  合わせた香水──エルメスの『地中海の庭』も、ユニセックス系ではあるが、爽やかで上品で、ほのかな甘みを漂わせる。 「自分も、薫子さんみたいに、もっと綺麗になりたいです」 「あら、嬉しいこと、言ってくれるわね」  目を細めて、薫子が笑う。 「それじゃぁ、今日は一杯奢らせて。何がいい?」  こうして、夜は、更けていった。
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