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「河田に神薙!」
「はい! ただいま!」
上司の怒声に、パタパタと駆けていく後輩に遅れ、あくび交じりに颪は、のそのそと上司の元に駆けつける。
「遅い! 河田!」
「ふぁあい……もうしわけございませ──」
スパーンッ! と、見事に顔面にファイルが直撃して、颪はひっくり返った。
「痛ってぇッ!」
「目が覚めたかッ!」
額を押さえ、涙目の颪に、眉間にしわを寄せた上司──三剣が、再度怒鳴った。
「弛みきった顔してんじゃないよ! ほら! 事件だ! 会議室行くよッ!」
颪の首根っこを掴み、引きずる三剣が、くんッと、鼻をひくつかせた。
「……『地中海の庭』の、ラスト・ノート」
ギクッ……思わず表情を固める颪に、三剣はニヤリと笑う。
「昨夜は女でも抱いて、お楽しみだったんだろうが、仕事は、きっちりこなしてもらわなきゃ、こっちが困るんだ」
馬鹿面なんとかして、とっとと来なっ! 再度三剣は、手に持つ分厚いファイルで颪の頭をはたき、会議室に向かって部屋を出て行った。
神薙が、まるで仔犬のように、パタパタとその三剣の背を追いかける。
颪は一気に目が覚め、背筋に冷たい汗が流れた。
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