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「ダメだわ。今回に関しては、玄任会はシロね」
お手上げ……と、三剣が、頭を抱えた。
振出しに戻る……まさしく、そんな状況。
「仲間割れではない。かといって、別組織と抗争してるような形跡もないし……会長が代替わりして、まー、綺麗になったものだわ……」
代替わりすると同時、非合法薬物の取り扱いを辞め──その代わりに玄任会の主な活動資金源となったモノは『情報』。
もちろん、きちんとした証拠をつかみ、取り扱いによっては法に触れ、御用とすることも可能であるだろうが、漠然とした『情報』有無だけでは警察も動くに動けず、玄任会もそこを踏まえ、『情報』の売買を仲介をし、その『情報』を使って他者を強請る等、表だった行動を起こしているわけでもないので、警察も現状では手出し不能。
さて、どうしたものか……とりあえず本日は定時となり、颪は帰路につく。
しかし、その前に、いつものように、いつもの店に──そう思っていた颪は、思わず歩みを止めた。
進行方向に立つ、目立つ人影。
白いスーツ。背の高い、線の細い男──。
「な、何の御用でしょうか?」
玄任会の若頭──思わず、颪の声が上ずった。
「警視庁刑事部捜査一課、河田 颪さん……いえ、嵐子さんと、お呼びしたほうがいいでしょうか?」
ぶほッ……、思わず颪はむせた。
何故、その名を、この男が知っているのか……ぶわりと、嫌な汗が噴き出す。
そして、先ほどの三剣とのやりとりを思い出した。
──玄任会の、主な活動収入源となったモノは『情報』──。
「お、オレを、強請る気です?」
颪の言葉に、若頭は、ぱちくりと細い目を見開いた。
そして、面白そうに頬を緩める。
「いいえ。わざわざ刑事である貴方に、自分からそんなことをするメリットは、全く無い。ただ、一つ、お願いが、あるんです」
お願い? 訝しむ表情の颪に、若頭は笑みを凍らせ、真面目な顔でうなずいた。
「あの人には……三剣女史には言えなかったことですが、安藤に関係する話です。彼を……神薙 安曇を、今から指定する場所に、連れて来てくれませんか?」
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