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「でね、暑くて溶けそうだったから、とりあえず日陰まで行ったのよ。そしたら、動けなくなっちゃったんだよね。」
少女が要求した雪はなかったので、試しにかき氷を出したら、すぐに元気になった。去年の夏の猛暑を乗り切るために、かき氷機を買っておいて本当によかった。
これまでの話をまとめると、彼女の名前は銀花。信じられない話だが雪女らしい。
雪女は春が近づくと北風に乗って寒い地域に移り住むものなのだが、銀花は寝過してしまい、目覚めたときには北風が既に寒い地域に移ってしまっていたのだそうだ。
「いやー、あのまま溶けちゃうかと思ったよ。ありがとう、ええっと…」
「春樹だよ。」
「ありがとう、春樹!」
彼女は無防備な笑顔をこちらに向ける。可愛らしい笑顔に思わずドキッとする。そのことを銀花に気付かれるのが少し恥ずかしかったので慌てて尋ねる。
「それで…これからどうするの?」
銀花は顔を曇らせる。
「そこなんだよね…。北風は寒いところに行っちゃったから、もう移動はできないし…。」
銀花はしばらく「うーん。」と考え、意を決したようにこちらに向き直り、姿勢を正して頭を下げる。
「お願します!次の冬までここに居させてください!」
少し考える。正直に言うと断りたい。雪女だというところから胡散臭いし、実は家出していたとかで面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。
しかし―
「いいよ。銀花がいいのならいつまででも。」
小さくなって頭を下げ続けている女の子を見捨てることはできない。
こうして、僕と銀花との生活は始まった。
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